成功の鍵はローカライジング。東北産品をヨーロッパへ届ける!

[新しい東北]

被災地を単に元の状態に復旧するのではなく、復興を契機に人口減少・高齢化・産業の空洞化などの課題を解決し、他地域のモデルとなることを目指す復興庁の「新しい東北」事業。その先導モデル事例をご紹介します。

テーマ:持続可能な産業・人材づくり
地域:被災3県
取り組み主体:東北海外展開加速化協議会
事業名:東北発!海外展開加速化プロジェクト
背景:
日本のおいしい産品を海外展開したい
現在、日本のデパ地下やスーパーには輸入されたさまざまな食材が並び、容易に買い求めることができる。しかし、日本からの輸出は輸入と比較すると非常に少ない。日本食への注目が世界的に高まる一方で、日本の魅力的な産品を味わってもらう機会はまだ少ないのだ。海外での販売に興味はあっても、現地とのネットワークや直接コミュニケーションをとる機会がなく、自力で進出することはできていない生産者や事業者が多い。
ポイント:
●あえてヨーロッパに着目
●現地の味覚や食文化について直接聞く
●きっかけ作りだけで終わらない

基幹産業である農業や水産業が大打撃を受けた被災地では、いまだ復興にいたっていない生産者や事業者が少なくない。新たなマーケットとしてヨーロッパを掲げ、生産者への情報提供や、現地進出サポートを行っているプロジェクトを紹介する。

その気にに合わせ、蒜本のストーリー性を見直す

持ち込まれた食材をシェフがアレンジしての試食の様子。

持ち込まれた食材をシェフがアレンジしての試食の様子。

2014年8月に発足した、東北海外展開加速化協議会。東北経済連合会が事務局となり、岩手県、宮城県、福島県、石巻市といった自治体に加えて、日経BP社など民間企業や、観光PRを行う東北観光推進機構などが共に取り組んでいる。
目的は、東北の産品を海外へ輸出拡大し、先導的な新しいモデルを開発すること。マーケティングやプロモーションの活動を日経BP社や 東北博報堂などと一緒に行っている。
これらの取り組みの中で特に力を入れているのは、現地の嗜好や食習慣に合わせてパッケージやレシピをアレンジする「ローカライジング(現地化)」だ。
日本貿易振興機構(ジェトロ)の報告によれば、ヨーロッパのバイヤーから「顧客は商品のストーリー性を重視する。現地に合わせたプレゼンテーションがポイント」という声があがっているという。
日本人にとっては馴染みのある魅力的な 産品でも、そのままの状態では海外の消費者に受け入れられないものは多い。ストーリー性やアレンジを見直し、パッケージラベルなど情報の伝え方を工夫することで、外国人になじみのない産品への購買ハードルを下げていかなければならない。

なぜイタリア進出を決めたのか

輸出先として注目したのは、イタリア。おもな理由は二つある。一つは、市場にポテンシャルがあるから。既に香港などは日本の生産者どうしが競争する、成熟した市場になっている。輸出規制が厳しい欧州への輸出はアジアと比べて少なく、そこに着目した。ヨーロッパで日本食は人気が高い一方、現地で本物の日本食に触れることができる機会がまだ少ないことも、市場機会と言える。
もう一つは、2015年5月からイタリアで「ミラノ国際博覧会」が開催されること。今回は「地球に食料を、生命にエネルギーを」がテーマで、出展予定は約140カ国、想定入場者数は約2,000万人といわれている。食に関心の高い人に東北の産品をアピールする絶好の機会だ。  
輸出に関わる団体としてジェトロの取り組みが知られているが、同協議会のプロジェクトの特徴は、きっかけを提供するだけでなく、それぞれの産品をピックアップし、海外の販売やその現場にいたるまでのフォローアップをしている点だ。

イタリアの専門家との交流で、新商品のアイデアも誕生

試作品が持ち込まれたり、アウトプットとしてパッケージ改良イメージが出てくるなど、具体的な成果も。

試作品が持ち込まれたり、アウトプットとしてパッケージ改良イメージが出てくるなど、具体的な成果も。

まず、郡山、仙台、盛岡で生産者向けのセミナーを開催した。海外を身近に感じてもらい、どう展開させるべきかわからない生産者の背中を押すほか、参加者をさらにステップアップさせる狙いもあった。  
それが「ミラノ工科大学東北の食ローカラ イズ・ワークショップ」。イタリアにあるミラノ工科大学の食やデザインに精通している専門家3人を仙台へ招き、産品の試食や、イタリアならばどう料理するかを目の前で実践してもらう試みだ。商品の味が現地で受け入れられるかどうかは、コミュニケーションのコンセプト作りにおいて重要である。専門家は試食しながら、「味噌はイタリアならばリゾットに使用する」「日本酒の『辛口』は外国人には分かりづらい」などのアイデアやコメントを出した。さらに、東京からデザイナーも呼び、パッケージデザインも検討された。  
味覚や食文化の違いなどを学び、「直接意見をもらうことができ、自信がついた」「産品の味わい方に思い込みがあった」などの感想を述べた生産者たち。3日間のセミナーの最終日、イカの塩辛にバジルやオリーブオイルなどを混ぜた試作品を作って持ち込む生産者の姿もあった。  
今後は、パッケージデザインなどを仕上げるフォローアップ・ワークショップを経て、イタリアの有名シェフや批評家などを招いた現地での試食会や、ミラノ市内のレストランでのマーケティング調査を実施する予定だ。ゆくゆくはECサイトでイタリアなどを対象にネット販売をしていこうと考えている。

記事提供:復興庁「新しい東北」